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1.お客様
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神奈川県 きー様 |
灯火採集(ライトトラップ)用ライトの歴史をご存知の、きー様にご使用していただき、灯火採集の面白さや醍醐味が凝縮された素晴らしいレポートを頂戴しました。
「HIDハンディライトこそ21世紀のライトトラップだ!!!!!」
という、お言葉が嬉しく励みになる半面、気の引き締まる思いです。
引き続き、ライトトラップの革命にチャレンジしていきます。
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2.採集記
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初の離島灯火採集 |
真っ暗な闇の中に小さくも力強い明りが灯る。夜の静寂(しじま)、聞こえてくるのは沢を流れる水の音だけ・・・。1983年夏、23歳の私は憧れの島 長崎県対馬の山中にいた。
私の初の離島採集は、11歳、虫の師匠である佐藤氏に連れられての北海道利尻島、その後、いくつかの島を回ってきたが、夜間のライトトラップ(灯火採集)を離島で行うのは初めてである。その力強い(と感じた)光の元は、アセチレン灯であった。
また当時、佐藤氏とともに、佐藤氏がその頃に発売され購入した2サイクル発電機と、「工場の天井に付けるような長い蛍光灯」を車に積んで、夏になると地元丹沢や箱根でライトトラップをやっていた。しかし、さすがにあの大きな蛍光灯とバッテリーを対馬に持っていく気にはなれなかった。あまりにも重装備すぎる・・・
そこで思いついたのが、同じく師匠が子供のころから使ってきた「アセチレン灯」である。師匠曰く、「俺はこのアセチレン灯をリュックに入れていつも箱根山でキャンプをしたものさ。真っ暗な山の中では虫がたくさん来るよ。」と勧めてくれた。
http://www.netlaputa.ne.jp/~n-med/tt/kensin/asetiren.htm
「これは実にハンディだ、離島への持ち運びに最高だ!」と思った私は、迷いなく初の離島夜間採集の武器としてこの道具を持ってきたのである。小さなランプ台にカーバイトという芯みたいなものを装着し、水を入れて火を付けるだけの実に簡単な装置である。
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飛んでくるけど・・ |
アセチレン灯の明かりは結構明るい(と感じた)。しばらくすると、虫がいっぱい集まってくる。けれどもほとんどが蟻や蛾・・・ばかり・・・中には混じって小さなコガネムシやカミキリモドキなどがぽつぽつと飛来した。甲虫屋の私にはかなり物足りない。12時頃まで粘ったがはかばかしくない。飽きてしまい片付けることにした。
ふと、足元にあった夕飯の時食べたスイカの食べかすである残った皮に目をやる。ツシマヒラタクワガタの♀が付いていた。初のツシマヒラタクワガタは憧れの大きな顎を持った♂ではなかったが、嬉しかった。だが、はたしてこの大型の?甲虫は、アセチレン灯の光に誘き寄せられたのか、スイカの皮に寄せられたのか・・・今となっては知るすべもない。
その後、3日間、アセチレン灯を夜毎に焚き続けたが結果は同じで集まるのは蛾ばかり・・・。4日目からはやるのをやめてしまった。
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その後の灯火採集 |
仕事に追われ、子育てに追われ、虫嫌いな妻は虫採りに理解はなく・・・その後の私は、すっかり灯火採集はおろか、昆虫採集から遠ざかってしまった。
しかし、子供が中学校に通うようになり単身赴任を余儀なくされた私は、夏の週末の夜、まるで私が虫であるかのごとく、近所の外灯の光に呼び寄せられるようになっていった。「そうだ、私が外灯に行くのではなく、もう一度、自分でライトトラップをやってみよう。」と思うようになった。
電器屋である友人のS氏を誘い、福島や新潟へ1000W以上の強力な水銀灯と大型の発電機を車で持ち込み、夏の週末は毎週のように出かけた。
1000W水銀灯の威力はすさまじく、ミヤマクワガタ、オオクワガタなどのクワガタムシ類やカミキリムシなど多くの甲虫が集まった。しかし、元来、離島好きの私は、「ふたたびライトトラップを離島でやってみたい。」という強い気持ちでいっぱいになった。
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ふたたび島へ |
「島でライトを焚いてみたい」、と思った私だが、さすがに1000Wの水銀灯と大型発電機を運ぶのは不可能に近い。アセチレン灯・・・さすがにもうこれを持っていくという気持ちはもちろん全く無い。
そこで、思いついたのが発電機としてはかなり小型の、佐藤氏が1970年頃に購入した「子供のころ使っていたあれを持って行こう」、そう思ったのである。
さっそく100Wの小型の水銀ランプと安定器を購入。沖永良部島へ飛び立ったのは、あの対馬から22年後、2005年の夏であった。
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私の離島用ライトトラップ装置 |
沖永良部島初日の夜、私の持参した年代物小型2サイクル発電機と100W水銀灯は大活躍、オキノエラブノコギリクワガタ、オキノエラブヒラタクワガタなど多くのクワガタムシ、タイワンカブトムシ、カミキリムシ、コガネムシ類が大量に飛来した。「100Wでもさすが水銀灯」・・・私は、「水銀灯こそ虫を集める最高の灯火装置」と改めて確信した。
2日目の晩、ところがどうしたことであろう、発電機を作動しようとしたところ、あの始動紐?を何度引っ張っても動かない・・・今までも時々起きていた現象、「通称?『感じてしまう』・・・」という現象が発生してしまったらしい。
たまたま近くにいた辛口のF氏が、「きーさん、いくら持ち運びが良くても、そんな使い物にならない装置を持ってきてどうするんですか。わざわざ離島まで運んで全く意味が無いですよ。」と呟いていたのを今でも覚えている。
そんな私の灯火装置であったが、その後も時々、調子が悪くなるものの、徳之島や伊豆諸島ではかなりの成果をあげてくれた。「私とともに歩んできた小型発電機&水銀灯灯火装置。私と同じく齢をとっても、『だましだまし使えばまだまだ現役で行ける。』」そう私は思っていた。
実は、この少し後に、灯火総研さんより、「HIDハンディライト」というライトが開発、販売が開始された、という噂を耳にしていた。しかし、超ハンディな灯火装置・・であるかつての「アセチレン灯」によるトラウマ、と、その後の「発電機+水銀灯」、の威力を充分経験した私には、ハンディなる大型の懐中電灯のような「HIDハンディライト」、が水銀灯よりすぐれている、とはとても思えなかったのだ。
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西表島へ行きたい |
2015年夏、西表島にはすでに何度も採集に行かれている友人達から、私が長年訪問を熱望していた同島へ夜間ライトトラップに行くお誘いを受けた。
しかし、すぐに私の頭をよぎったのは、「私と同じくらい年をとってしまったあの小型発電機がもし現地で動かなかったとしたらどうしようか・・・。F氏が沖永良部島で呟いたように『全く意味がない・・・』」ということである。
そこで、私は、意を決し、灯火総研の社長さんへ連絡をとり、「HIDハンディライト」をレンタルしていただけないか、とお願いをしたところ、「レンタルはしていないが、今、『HIDハンディライト』にて、人気のクワガタ以外でいったいどのような虫が集まるのか、情報を求めている。その調査を行ってもらえるなら、特別にお貸しするのでぜひお願いしたい。」というありがたいお言葉をいただいた。
とは言うものの、私にはまだ長年苦楽をともにしてきた愛すべき「老齢の2サイクル発電機によるマイ灯火セット」を置いて行く気にはなれなかった。 そしてもうひとつの理由として、「『HIDハンディライト』なるものは、本当に水銀灯を超える正の走光性があるものなのか・・・」・・・この疑念は決して消えるものではなかったからだ。
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憧れの西表島 |

そしてついに西表島にてライトトラップに挑む時がやってきた。ポイントの林道へ入る前、もしかすると「2サイクル発電機マイ灯火セット」がまた動かないのではないか・・・、という一抹の不安がよぎった。
旅立ち前に地元のガソリンスタンドにて点検をしてもらい、プラグの掃除もしてもらっていた。それでも心配な私は、実家の庭にて試験作動を確認、これは問題ないだろう、と連れてきた長年の連れ合いである。
民宿の庭に出て、ちょっと試してみよう、と作動させると・・・一発で無事動いてくれた。お借りしてきた「HIDハンディライト」との共演で今夜から活躍してくれるであろう、と、期待はますます膨らむ。
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ついに本番へ |
それでもなんとなく私の胸の中に嫌な予感がよぎる。コンパクトな発電機と水銀灯とはいえ、重たい思いをして林道を担いで行き、作動しなかった・・・、では洒落にもならない。
出発直前にもう一度マイ灯火セットを作動させてみよう、と庭に出る。さきほどと同様、発電機の紐を引っ張る。1回目・・・動かない。2回目・・・動かない・・・3回、4回と引っ張るが動かない・・・。もうダメだ・・・。何ということか・・・私の悪い予感は当たってしまったのだ。
その後、長年連れ添ってきたマイ灯火セットはついに作動することは無かった。落胆する私の耳にふたたびF氏の囁きが聞こえたような気がした。「きーさん、そんな使い物にならないものを持ってきてもしょうがないでしょう!」
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初めての「HIDハンディライト」 |
もう頼るものはお借りしてきた「HIDハンディライト」しか無い。白布とこれだけを背負いポイントへ向かうことにした。

ポイントへ到着し、陽の暮れるのを待つ。期待と不安の中、ついにその時を迎える。日没だ。今回初めて使用するのでちょっと心配である。しかしながら、あらかじめ充電していただいているのでスイッチを入れるだけ。なんと実に簡単。
スイッチを入れると・・・「素晴らしく明るい!!」。 見かけは大きな懐中電灯のように見えるがその明るさは少しも凝視できないほど強烈だ。
「しかし本当に虫は集まるのだろうか・・・」、谷筋に向かって光を飛ばしてみる。すると、遥か遠方の山肌の木々を映し出すかのような強烈な閃光が飛ぶ。「これは、以前オオクワガタ採集の時に使っていた大型水銀灯に匹敵する明るさだ!」
点灯直後20秒もしないうちにアオドウガネの1頭目が飛来、5分もしないうちにおびただしい数のアオドウガネが集まってくる。点灯からわずか数分、私のイメージしていた アセチレン灯に起因する「持ち運び便利なハンディライト」、のトラウマは早くも払拭された。
そして、ひとり呟いた。
「『HIDハンディライト』は、まさに21世紀の灯火装置だ!!」。
その後、アオドウガネ以外の多種類の甲虫も集まってきた。特にその中にオオフタモンウバタマコメツキやサキシマヒラタクワガタ、イシガキクワカミキリ、ヤエヤマウスバカミキリなどの大型甲虫が来るのでかなりうれしい。私は甲虫屋なのでわからないが、もちろん多くの蛾やカメムシ、セミなども飛来する。

途中でバッテリーが無くなったため、こちらもお借りした外付けのバッテリーを繋ぐ。ただ繋ぐだけでよいのである。機械が苦手な人、年配の方、女性にも極めて優しい装置である。実は別売りの専用コードがあれば車のバッテリーから直接電気を引くことも可能と言う。これならば、車の入れる場所であれば一晩中の点灯も可能であり実に便利である。
この日は12時くらいまで点灯、実に様々な虫が飛来した。しかしながら残念なことは、「これは本当に凄いなー」といった虫が来なかったことである。ここは翌日以降に期待、ということで宿へ戻ることにする。
そうそう、ここで実にうれしいことがもうひとつ、「後かたづけがきわめて簡単」ということ。白布を畳む、くらいであとは何もなし。熱くなっている水銀灯が冷えるのを待つ必要もなく、重い電球、変圧器、発電機を辛い思いをして運ぶ必要もなし。
たぶんあのアセチレン灯の後かたづけよりも楽かと・・・
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そして最終日へ |
2日目の晩も初日同様、大変多くの虫が集まった。しかしながら集まる虫は、初日とほぼ同様の顔ぶれであった。

最終日の夜がやってきた。相変わらず虫の飛びはよい。しかし、依然として同じ顔ぶれの虫たちばかり・・・

しかし、ついにその時が訪れる。11時にさしかかる頃、ヤエヤマウスバカミキリ、イシガキクワカミキリとは明らかに違う色をしたカミキリが白布に落ちる。その迫力あるフォルムはクロカミキリに似るが、漆黒の羽には光沢がある。
これは・・・サキシマニセクワガタカミキリではないか!、素晴らしい!!
そして今度はほどなくして、いつものヤエヤマウスバカミキリが足元に落ちた。いや、しかしよく観るとなんとなく違う・・・よく似ているけど違う・・・前胸背にたくさんのシワがある・・・。

超珍品と言われるニッポンムネヒダミヤマカミキリではないか!!! 最終日の最後の最後に大物カミキリが連続しての飛来に思わず興奮する。

時間は12時に近づきそろそろ外付けバッテリーも切れる時間だ。最終日にして、大物飛来、大満足である。
と、その時、足元の白布の敷かれていない林道上にいつものヒラタクワガタ♀よりも小さなクワガタの♀が落ちているのを見かけた。拾い上げてみるとどう見てもコクワガタである。

地元箱根、丹沢でも南会津でも、対馬であっても、どうでもよい?コクワガタ、しかしここは西表島である。数年前まで全くというほど採れず「幻のコクワガタ」とされていたヤエヤマコクワガタが私の手の中に間違いなくあった。
これは白布だけでなく、他の場所も入念に観なければ・・・と、今度はライトから離れた草の根ぎわを観て行くと、小さな♂が・・・。♀の時よりもすぐに確信が得られた。「小さいけど間違いなくヤエヤマコクワガタの♂だ!!!!」

そしてこの瞬間、私は西表の夜空に向かってひとり叫んだ。
「HIDハンディライトこそ21世紀のライトトラップだ!!!!!」
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3.あとがき
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実際に灯火総研さんの「HIDハンディライト」を使ってみるまで、その効果ははたしてどれくらいのものだろう・・・と疑念を持っていた私であるが、実際に使ってみてその便利さと効果に驚かされた。
本文中にも記したが、その明るさは大型水銀灯に勝るとも劣らない。そして、操作はスイッチを入れるだけの超簡単。準備、後片付けの時間が全くといってほどかからない。軽くて持ち運びが便利なので、離島や山奥へ簡単に運送、持参できる、という点で他のライトトラップ装置の追随を許さない。
今回の西表島での体験を通し、私のようにアマチュアで趣味の昆虫採集を楽しむ者から、プロの研究者まで、そして、女性や子供、年配者にも非常に使いやすいライトトラップ装置、と確信した。
文中では記しきれなかったが、今回の西表島では、クワガタムシやカミキリムシなど人気のある甲虫以外にも蛾類、カメムシなど多くの昆虫が観察できた。同島で得られた甲虫に限り、神奈川昆虫談話会 平野幸彦氏に同定して頂いたので、別紙にリストとして報告する(尚、リストには、ゾウムシなど一部灯火採集以外の採集にて得られたと思われるものが含まれる)。
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4.西表島産甲虫採集目録 平野幸彦氏作成
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( )は平野氏に同定して頂かなかったが飛来した甲虫
また、ゾウムシは灯火以外での採集の可能性あり
ハンミョウ科
ヤツボシハンミョウ
オキナワシロヘリハンミョウ
タテスジハンミョウ |
コガネムシ科
オオニセツツマグソコガネ
ヨツバコガネ
フタスジカンショコガネ
ヤエヤマビロウドコガネ
ヤエヤマヒメクロコガネ
リュウキュウクロコガネ
オキナワコフキコガネ
アカチャコガネ
シナコイチャコガネ
シャミセンコイチャコガネ
ベーツツヤコガネ
リュウキュウアオドウガネ
アオドウガネ八重山亜種
ムシスジコガネ八重山亜種 |
オサムシ科
オオアトボシアオゴミムシ
ヒロアオヘリホソゴミムシ |
クワガタムシ科
サキシマヒラタクワガタ
(ヤエヤマノコギリクワガタ)
(ヤエヤマネブトクワガタ)
(ヤエヤマコクワガタ) |
アツバコガネ科
フチトリアツバコガネ |
ナガクシヒゲムシ科
ナガクシヒゲムシ |
ゴミムシダマシ科
ヒメオオニジゴミムシダマシ
モンキゴミムシダマシ
イリオモテユミアシゴミムシダマシ
オオニジキマワリモドキ
イリオモテキイロクチキムシ
ヤエヤマオオクチキムシ |
ハナノミ科
クリイロヒゲハナノミ |
ツチハンミョウ科
オキナワキゲンセイ |
ゾウムシ科
アラメカレキクチカクシゾウムシ |
コメツキムシ科
オオフタモンウバタマコメツキ
ヤエヤマサビキコリ
サキシマシロモンサビキコリ
クロヘリツヤコメツキ |
ミツギリゾウムシ科
ヤエヤマミツギリゾウムシ |
カミキリムシ科
(ニッポンムネヒダミヤマカミキリ)
(サキシマニセクワガタカミキリ)
(イシガキクワカミキリ)
(ヤエヤマウスバカミキリ) |
カミキリモドキ科
オキナワカミキリモドキ |
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5.灯火総研より
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レポートを拝見して |
きー様、大変貴重なご経験と、今や最後の楽園と言われている、西表島での採集記に胸が躍りました。
私がHIDハンディライトを持参した初めての離島採集は徳之島でした。島で購入した虫を入れるための部品ケースが、あっという間にトクノシマノコギリで埋め尽くされた時、「これは南国でも使えるな!」と確信しました。
しかし、本格的な採集は2001年に始めて以来、もっぱら信越・東北地方のオオクワガタばかり。南国へ行っても採集をすることは、なかなか勇気が出ませんでした。
2015年の石垣島での採集禁止に続き、2016年は西表島での採集も禁止になるという話を伺ったことがあります。きー様のレポートに刺激され、最初で最後の西表島での採集を経験として残したい思いに駆られました。
2001年に合計560Wの水銀灯と発電機から灯火採集を始め、2004年に1000W3灯になりました。そこから数年は変わらないものの、ガソリン臭や機材の重さが身体に堪えてきたのと、準備と撤収に時間がかかることから、「本格的な灯火採集が、誰でも何処でも簡単にできるようにならないか」と考えるようになりました。そんな中で、HIDハンディライトと出会いました。
そこから開業して早いもので約8年が経ち、お客様の声に応えたく日々精進して参りました。これからも、多くの昆虫採集家に感動していただけるよう研鑽に励みます。
今後ともご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます。
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